バルテュスの部屋
現代の油画のコクの味わいで思い浮かべるのはバルテュス。都美術館で大回顧展。
画集で何度も見たもののこう描いていたのか、など作者の気持ちの揺れ動きを抑揚のある筆致や絵の具の層から感じる様で新しい発見もあり、見終えてああ油画もいいなと思いました。こういう展覧会を見ると、すべてをフラットに奇麗に仕上げてしまう絵の、心の通わないつまらなさを感じてしまいます。
思ったより込んでいなかったお陰で離れたり近寄ったりが自由に出来ました。絵の前に立つ距離によって楽しみ方の幅がありました。
画集だと構図の古典的な線による区画分けのリズムなどが強調されて見えていましたが、現物を前にするとその静けさと怪しさの混じった舞台的な雰囲気に飲まれます。
1mほどの距離に近づくとグレーの豊かさが渋くも味わい深い。こういう色は絵を前にしてこそ。しみじみ美しい。そして美しく見せるのが困難だろうと思います。垂涎。モデルやコスチューム、器物などもいいのですが、何と言ってもここまで壁と床というつまらないモチーフだけでも楽しませてくれる画家はそうはお目にかかれないのではないか。風景を描いた絵でも普通っぽく見えて、実際は作者のコントロールが注意深く隅々まで行き渡っているようで長時間見ていられます。
うんと接近すると今度は絵の具の重ね方が目に入ってくる。薄い所はセザンヌのようにキャンバスの地が見えていたり、最初に塗られた層が最後まで重要な部分に露出していたり、かと思えば何層も重ねた痕跡もあり、と自由自在。辛抱強くこだわりを持続しながら仕上げた仕事の成功を見ると嬉しくなりますね。
眼球に贅沢をさせてきました。